クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「はい…まあ、なんとかやってるよ、いや、食わずに寝ちまったから」


十中八九、律己くんの件だろう。おばあちゃんの心配がここまで伝わってくるようだ。やっぱりこのお父さん、全然信頼されていないっぽい。大丈夫なのか。


「うーん、どっかに食いに行くかなとか。だって仕方ないだろ、できないもんはできないんだよ、食わせねーよりマシだろ」


息子と母親の会話って、いくつになってもこういう感じなのかしら。

お父さんがかったるそうに「はいはい」と相槌を打ち、長めの前髪をかき上げる。


「余計な心配してないで、早く治せよ、なんかあったら相談するからさ」


あの素敵なおばあさまも、息子の前ではただの母親らしい。がみがみした口調が携帯から漏れ聞こえてきて、私は笑った。

電話を終えると、彼は「すみません」と恥ずかしそうにした。


「もしかしてお父さん、お料理とかされないんですか」

「はあ、普段はひとりなもんで、まあ、適当に」


こりゃ、心配されて当然だ。


「園で、補食という軽い夕食を用意できます。本当は月初めに申し込んでいただかないといけないんですが、掛け合ってみますから」

「え」


事情が事情だ。材料の仕入れのため、いきなりの対応は不可とされているけれど、ひとり分くらいなんとかなるだろう。すぐに園長と栄養士さんに相談しよう。


「おばあちゃんが元気になられるまで、私たちもできる限りサポートしますから、お父さんも頑張ってください」


私の勢いに圧されたのか、「はあ」と彼がつぶやく。

しっかりしてよ!

思わずその腕を掴んだ。


「律己くんには今、お父さんしかいないんです。彼は複雑な子です。ほかの子みたいにしゃべりませんが、いろんなことを見て、考えています」

「あいつ、しゃべらないんですか」


今聞いた、という感じの反応に、脱力と怒りが押し寄せた。

なにを言っているのよ…。
< 14 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop