クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
俺…と心当たりを探して宙を見つめたところに、電話の主が遠慮がちに『有馬です』と続けた。

飛び起きた。

有馬さん!


『すみません、夜分に』

「いえ、いえっ。あの、ええと、律己くんになにか…」


以前、ホットラインとして渡しておいたこの携帯の番号は、一度も使われたことがなかった。彼から聞いた番号も、保護者連絡先として聞いたものだから、私物の携帯には登録していなかったのだ。

どうしたんだろう、急な熱でも出たんだろうか。まさか安斉さんに呼び出されて、これから出なきゃいけないとか…?

いろいろと想像をめぐらす私に、有馬さんは『あ、いや』と少し慌てた様子を見せた。


『すみません、そういうんじゃないんです。あの、先生、明後日の日曜、空いてますか』

「え?」


頭の中で予定をさらってみる。さらうまでもなく、休日に約束なんて入れていないことはわかっていた。


「はい、空いてます」

『一緒にどこか、出かけませんか』

「え…」

『あの、母が久しぶりにこっちに来ることになって、留守を見ていてくれるというので』


気恥ずかしさに耐えているような声だった。

有馬さん、どこで電話をしているんだろう。書斎かな、リビングかな。

時間的に、律己くんはちょうど寝たところだろう。手が空いてすぐに、この電話をかけてきてくれたんだ。

どうにも胸が熱い。


「はい、ぜひ」

『よかった』

「どこへ行く感じですか?」

『全然考えてないんですけど、先生の行きたいところなら、どこでも。車出しますし。遊園地でも水族館でも。天気がよければ海でも』


律己くんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。


「私、お弁当作ってもいいですか」

『ほんとですか? すげえ、楽しみにしてます』
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