クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
律己くんと転げ回って遊ぼうと思って、Tシャツにパーカー、ジーンズ。全力疾走しても脱げないスニーカー。挙句の果てに、髪もぎゅっと一本に結った、完璧な保育士仕様。

耐えられない。

この女心、わかります、有馬さん? わかりませんよね。

掴まれた手から、振動が伝わってきた。これ絶対笑っているでしょ。

振り向いたら、やっぱり笑っていた。


「…有馬さんの説明が」

「いや、足りてたでしょ、どう考えても。俺、謝らないですよ」


肩を震わせながら、堂々と言い切る。

彼のせいにするのは無理があると、私もわかっていた。

手がくいと引かれた。


「乗ってください」

「でも」

「俺、こう見えても食うんで。二人前くらい軽くいけますから」


まだ笑いを残した瞳が、それでも本気で誘ってくれているのがわかる。

私は、みっともない自分にすごく腹を立てていて、見捨てたいような気持ちにもなっていて、でも、こんな私と過ごしたいと、有馬さんが思っているのが、ストレートに伝わってくるので。


「…はい」


消え入りそうな声で、なんとか返事をして、車に乗った。




「さて、どこ行きましょうか。子連れではないわけなんですが」

「もうやめてください…」


とりあえず大通り目指して車を出し、有馬さんがいたずらっぽく聞いた。

私は助手席で火照った顔を押さえ、彼の視線から逃れた。

そのとき、ああ…と改めて気づいてうなだれた。


「ごめんなさい、小さな子が一緒じゃないのに、お弁当広げられる場所なんて限られてますよね。自然公園とか想定してました、ごめんなさい…」

「え、別にどこでも広げてよくないですか? 誰も怒らないでしょ?」

「怒られるとかそういう話ではなく…」


有馬さんは片手を窓枠に置いて、片手をハンドルにかけている。運転席と助手席って、こんなに近かったっけ、と、すぐそこにある肘を見つめながら、なんだかどぎまぎした。

この間乗せてもらったときは、なにも感じなかったのに。

そうか、今の有馬さん、"お父さん"じゃないから…。


「いいじゃないですか、自然公園。アスレチックとか大人も楽しめるやつ、あったはずですよ」

「私と有馬さんが、アスレチックで遊ぶんですか?」

「ああ、先生、運動音痴でしたっけ」
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