クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「付き合っちゃうと、やっぱりそのへん、どうやったってばれると思うんですよ。俺のこと自体は別にばれていいんですけど、そのあたりってつまり、じゃあ律己と俺との関係は? って話に行き着くわけで」


ひょいとウインナーを口に入れ、有馬さんはまた、親子を見ている。

海からの風が、彼の髪をなぶる。


「そういうのが、望まない形で律己の耳に入ったらと思うと、それは嫌だなと」


私、ダメだ。

この人の置かれている状況を、わかっている気でいて、全然わかっていなかった。

思うよりずっとひとりなんだ。一匹狼に見えて、その実話してみればあけっぴろげで、だけどやっぱり、誰にも言えないことをたくさん抱えている。

両腕で懸命に、律己くんとお姉さんを守って、誰のことも頼れずに。


「ま、プラスになることもあるとは思うんですけどね。同年代の子と園の外で会えれば、律己は純粋に喜ぶと思いますし…って!」


彼が私のほうを見て、ぎょっと声を揺らした。


「え、い、今、先生が泣くとこありました?」

「泣いたらいけませんか」

「いや…」


私は目尻に浮かんだ涙を拭い、うろたえている有馬さんを睨んだ。


「私は関係ないから、泣いたら変ですか?」


彼はうろたえ、「いえ、そんな」と呟きながら、手に持っていたゆで卵と私を何度か見比べ、卵をお弁当箱に戻した。

持ってきたレジャーシートの上で、抱えた膝に顎を埋めて、なにもできない自分にふてくされて海を眺める。そんな私の肩に、ためらいがちに有馬さんが腕を伸ばした。


「すみません、関係なくないです」


自分の肩に、私の頭を乗せるみたいに、私を引き寄せる。

私がなにも言わないので、困っているような間があって、やがて有馬さんは「少なくとも、俺の中では」とぽつりと言い添えた。

彼のシャツに顔を押しつけて涙を拭いた。


「先生、食ったらあっちで遊びませんか」


有馬さんが指さした方角には、小さな遊園地がある。


「観覧車乗りましょうよ、俺、高いところ大好きで」

「…私、あんまり好きじゃないです」

「じゃあ自分の靴でも眺めてたらいいですよ」


ちょっとした反抗もあえなく流され、私は吹き出した。

有馬さんも笑った。


「今日、最初から俺とふたりだってわかってたら、なに着てきてくれました?」


肩を抱かれながら、うーんと考えた。
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