クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「まずは、スカート…」

「やった」

「か、パンツかで迷ったとは思いますが、とりあえず絶対、ヒールのついたパンプスは履いてました」

「俺、好きですけどね、女の人のスニーカー。元気で」

「あと、髪は下ろすか、せめてもっときれいにまとめてたと思います」

「じゃあ、次は、それで」


目を上げると、楽しそうな瞳が見返してくる。視線で答えた。

はい、次は、それで。


「残り、もらっちゃいますよ」

「ほんとよく食べるんですね」

「普段、そんな食べないんですけどね。あればいくらでも食います」


言葉の通り、彼はぺろりとすべてをお腹に収め、「ごちそうさまでした」と満足げな息をつくと、立ち上がった。

お弁当箱とレジャーシートを片づけると、当たり前のように荷物を持ってくれる。それから空いた手を、私のほうへ差し出した。


「行きましょ」


私はもう、ためらう理由もなく、自分に正直に、喜んでその手を握った。

有馬さんは微笑み、「律己とノリが同じだ」と揶揄する。

腹を立てて振りほどこうとした私の手を、ぐっと握って離さず、そうして歩きながら、彼はゆっくりと、指と指を絡めた。




「すごーい、楽しかった!」

「そりゃよかったです…」


二時間ほどたった後、私は有頂天で、一方の有馬さんはぐったりしていた。どうやら回転する乗り物や上がったり落ちたりするのは苦手だったらしい。

私はそういうのが大好きなので、気を抜くとあちこちにある100円のクレーンゲームに夢中になりかける有馬さんを台から引き剥がしては繰り返し乗った。

アイスも食べた。観覧車ももちろん乗った。

私は靴ではなく、「俺んち見えるかなあ」とずっと窓の外に釘付けだった有馬さんを見ていた。
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