クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「どこ行きます?」

「そうですね、日差し強かったから、どこか入れるところ…」


駐車場の車の中は、温かいを通り越して暑くなっている。乗り込んでエンジンを入れると、有馬さんはすぐに窓を全開にした。

11月も目前のこの時期、夕方というにはまだ少しある時間なのに、もう日は西に傾いている。

有馬さんはハンドルに両手を乗せて、うーんと考え込んだ。


「なにか食うって感じでもないですしね」

「お腹はいっぱいです」

「そんなに時間も残ってないんだよな、6時前には出ないと…」


呟きながら腕時計を見ていた有馬さんの声が、ふと消えた。

私もはっとした。たぶんお互い、同時に気づいた。

ひとつの可能性。

車内が一瞬、しんと静まる。

ハンドル越しに前を見つめて、じっと考えていた有馬さんが、遠慮がちにこちらを見た。


「…いいですか」


おずおずと、半ば申し訳なさそうに提案された、それに。

私はやっぱり、ためらう理由ももう、なくて。

だけど彼のほうを見て言うことは、とてもできなくて。


「はい…」


視線をうろうろさせながら、たぶん赤くなって、答えた。

< 149 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop