クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
えっ。

もしあそこで場所を探してうろうろしたりしていたら、私は緊張とドキドキのあまり、やっぱりやめます、と口走りかねなかった。

見事にスムーズな移動だったので、聞いてみたかっただけなのに。

煙草を指に挟んだ手で、頬杖をついて、有馬さんが私を見る。


「チャンスがあったら先生と入ろうと思って、夕べめちゃくちゃ調べたんです、とか、ついこの間来たんですよ、とか。なに言われたところで微妙でしょ?」


ああ…いや…うん。

はい、ものすごく微妙です。

恥ずかしくなってうつむいた私を、彼がくすくす笑う。


「ほらね。だから、聞くもんじゃないですよ」


諭すような、からかうような声。

あれ、なにこれ。なんかおかしいぞ。


「…実際のところは?」

「聞いてるじゃないですか」

「気になるんです。特にその、"ついこの間"のほうの例…」


食い下がると、有馬さんが軽く目を見開き、煙草をくわえた。


「律己とこのへんにドライブに来たことがあるんです。そのとき、あ、あるなって思ったんです」

「あるな…」

「別に先生のこと思い浮かべてたわけじゃないです。ただ、"あるな"って思ったんです。コンビニとか自販機とかと一緒。"探すとない"の代表格じゃないですか」

「つまりそれ、コンビニとか自販機並みによく探すってことですよね?」

「違いますって! ただ情報としてインプットしたの。わかりません?」


わからなくもない。"探すとない"の話は、私もいつか、誰かとした覚えがある。

でも、わかりたくもない。


「なんですか、その顔」

「別に」

「俺の女性遍歴でも披露しましょうか」

「いえ…」

「心配しなくても、律己が生まれた頃からこっち、ろくにないですよ。枯れた生活してました」


その言葉を疑ったわけではないのだけど、思わずじーっと彼を観察してしまう。有馬さんは揺さぶられる様子もなくその視線を受け止め、「あーでも」と頬杖姿で言った。


「そのほうが心配かもしれませんね。どうします、俺が久々すぎて、ものすごいがっついたりしたら」

「逃げます」

「逃がすわけないじゃないですか」

「じゃあ蹴り上げて、逃げます」


彼が楽しげに、「怖!」と笑い声をたてた。
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