クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「先生、けっこうあちこち弱いですね」

「あの…その"先生"っていうの、どうにかなりませんか」

「え」


腕をついて身体を起こした有馬さんが、きょとんと見下ろしてくる。ごめんなさい、もっと早く言いたかったんだけど、なかなか機会がなかったんです。


「ちょっと、仕事の立場を思い出してしまうというか」

「あー…そうか、そりゃそうですね」


とはいえ、という感じで、お互い顔を見合わせた。


「なんて呼ばれたいです?」

「えっ?」


うーん、と考えてしまう。

有馬さんが私の前髪を梳いては、額に頬にとキスを降らせる。集中できないので、頭を抱きしめてそれをやめさせた。


「…有馬さんの呼びたいように…」

「じゃあ先生で」

「だから!」


憤慨した私の腕から抜け出し、彼が唇にキスをくれる。両手で頭を抱いて、ずっとこうしたかったって言っているみたいに。


「なんて呼ばれたいですか」


間近で見つめる、優しい瞳。


「…"エリカ"でどうですか」

「エリカ」


身体がびくっと跳ねてしまうほど、ドキッとした。

有馬さんの手が、私の頬を包む。「エリカ」ともう一度ささやいて、だけど彼はそれきり、私の首筋に顔を埋めて無言になってしまった。


「有馬さん?」

「すみません、これで勘弁してください。今日はたぶんもう無理です」

「え?」


はーっと息をつきながら顔を起こし、その顔を手でごしごしこする。頬も耳も、立派に赤くなっていた。


「やばいですね、名前は」

「え…そんな?」

「じゃあ俺のこと、名前で呼んでみてくださいよ」

「篤史さん」

「…なんか不利ですね、俺?」


今のやりとりに有利とか不利とか、あった?
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