クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「…怖いですよ」

「有馬さん…」

「姉を失って、この上律己も失って。もうこりごりなんですよ。だったら、別にいらないものだったしって、そう思って楽になる自由くらい、俺にだってあるでしょ」


そらされることのない瞳が、昂ぶりに濡れている。

普段、さっと隠すのがうまい彼の、むき出しの心を見た気がした。


「最初から俺のものじゃなかったし、欲しくもなかったしって。思うくらい、いいでしょ」

「よくないです」

「先生は残酷です」

「そう感じるのは、私のほうが正しいとわかってるからですね」


わかってますよ、とふてくされた声が聞こえるようだった。

じろっとこちらを睨む目は、癇癪を起こした自分を恥じもし、起こさせた環境に腹を立てもし、このままだと引き続きぐずりたくなるだけだから、早くひとりにしてくれよ、と訴える小さな子供の目、そのものだ。

思わずくすっと小さな笑みが漏れて、ちょっと髪でもなでてあげたくなって、手を伸ばした。

だけどふと有馬さんの瞳の中に自分を見た瞬間、その手は行き先を変え、私たちはきつく抱きしめ合ってキスをした。


「有馬さん」

「答えなら出てませんよ」

「それはいいですよ」


むくれた声を出す頭を抱き、目尻のあたりに唇を押しつける。かすかに塩辛い味がして、彼の苦悩と不安を思った。


「律己くんの声を聞いてあげてください」

「またそれ」

「聞こえてるはずですよ。それが空耳じゃないか、自信がないだけでしょう?」


彼はなにも言わず、私の肩に顔をすりつける。

時間も時間、場所も場所なので、抱擁は短く、だけどぎゅっと熱く、その間に慌ただしくなにかを確認し合ったような気持ちで私たちは離れた。


「頑張ってください、有馬さん」


頑張りますよ、という憎まれ口を予想しての、励ましだったのだけど。

有馬さんはじっと私を見て、小さくうなずき。


「頑張ります」


彼らしいまっすぐな声で、そう約束してくれた。

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