クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
顔を見られなくてよかった。

嫌味のない声。純粋な称賛から言ってくれているのがわかる。

でも、ごめんなさい。


「別に、好きではないです」


ごまかせばよかったのに。

逃げるように部屋を後にした。


* * *


「えっ、お母さん、亡くなってるの?」

「らしいんです。面談とかで聞いてませんか?」


事務室に集まった数名の保育士が、一様に首を振る。みんな父親の存在は知ってはいたものの、保護者は祖父母とだけ認識していたようだ。

去年の担任である石埜(いしの)先生も同じみたいだった。


「遠方に住んでいるんだと思ってました。だから育児に参加しないのかなって」

「行事にもいらしたことない?」


うーんと記憶を探ってから、石埜先生がうなずく。

やっぱりそうか…。


「まあ、片親の子も珍しくはないですけど、ここまで面倒を見てくれるおばあちゃんがいて、よかったですよね」

「まったくその通りだと思います」


私は深々とうなずいた。

そうじゃなかったら、あのお父さんだけで律己くんを育てるなんて、絶対にできなかっただろう。能力はともかく、やる気があるのかないのかわからないのが問題だと思う、彼は。


「お父さんて、どんな方でした?」


石埜先生が、工作に使うマスキングテープを切りながら尋ねた。

家にまで押しかけて観察したとまでは話していなかったので、私は、ええと、と伝え方を考えた。
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