クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「それじゃ1と2の間にある動作のタイミングがバラバラになっちゃうでしょ、こういう場合は1、2、3、4と倍速でカウントするんです。3で手、4で足!」


その端的な指導と、見るからにきびきびと美しい見本に、私以外のメンバーからも、おお…と感嘆の声があがった。経験者やできる人からしたら当然のメソッドも、人一倍こういうものを不得手とする人間からすると、画期的だ。


「この曲、難しすぎないかなあ? みんなできるかなあ?」

「子供たちのほうがエリカ先生より感覚確かですよ。はい、もう一度」


うう…。

毎年、運動会と発表会の準備ではこうして自分の存在意義をへし折られる。しかもこれを、今度は平気なふりして教える側に回らなくてはならないのだ。

そして、途中からのやり直しにめっぽう弱い私は、案の定入るタイミングを逃し続け、「こらー!」と叱られた。


* * *


CDを止めて振り返ったら、保育室の戸口のところに、有馬さんがにやにやしながら立っていた。

わあー!

夕方の補食を済ませた後、残っている子供たちと練習をしていたのだ。私は慌てて活動記録のバインダーを棚から取った。


「お帰りなさい、すみません、気づかなくて」

「いえ、楽しそうに踊ってるんで、声かけずに見てたんです」


かけてよ。


「エリカ先生、もう一回踊りたいんだけどー」


渡すプリントなど、引き渡しの準備をしていると、子供たちが寄ってくる。


「ええー、先生、お手本できないけど、それでもいい?」

「全然いいよ!」


あ、必要とされていない…。

私はデッキのCDを再生させ、奥の部屋の律己くんに声をかけて有馬さんのところへ戻った。


「あの、こちら、発表会のご案内です。まだいろいろ未定なので、日付と場所しかお知らせできないんですが。ご予定ください」

「はい。この間律己が言ってたんで、空けてあります」


A4半切りサイズのプリントを受け取りながら、有馬さんがうなずく。


「律己くん、そんなこともお父さんに話すようになったんですか」
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