クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「ちょっとは褒めてくださいよ。頑張ったでしょ、俺」

「はい。よく頑張りました」

「出来は?」

「さあ」


また素知らぬふりで首をひねった。

だってそんなの、私が評価するものでもないですもん。自分だってわかってるでしょ、そのくらい。

小さな舌打ちが聞こえる。しょうのない人だ。


「わかる日なんて来ないのかもしれませんよ」

「救いがないですね」

「感じるんですよ、わかるんじゃなくて」


雲のない夜空には、星がいくつかきらめいている。「きっとね」と続けながら、それを見上げた。


「あのとき、こっちを選んでおいてよかったなあって。何度もそう感じるときが来るんです。そうしたら、それで"よかった"。それだけなんじゃないですか」


ね、と彼のほうを見た。

正解とか正しいとか、すべきとかしなくちゃならないとか。そんなふうに白黒がつく日は、きっと永遠に来ない。

有馬さんが、律己くんといて楽しいなあとか、幸せだなあとか。そう思えたらもう、それでいいんじゃないですか。

それが全部なんじゃないですか。

ぽかんとした顔で聞いていた有馬さんは、ゆっくりと空を見上げ、地面を見下ろし。

小さくうなずきながら、まんざらでもなさそうに微笑んだ。

今の考えを自分に染み込ませるみたいに、その後も、何度も何度もうなずいていた。


* * *


「まずい、最近、涙腺弱い…」

「歳ですか?」

「人が三十迎えたのがそんなに面白いですか」

「どうぞ、使ってください」


ボックスティッシュを差し出したものの有馬さんは強情に首を振り、赤くなった目頭を指で拭った。

市の文化センターの、小さなホールの舞台の上では、2歳児クラスの子供たちがてんでんばらばらながらも楽しそうに踊っている。

私はドアの隙間からそれを覗き、頑張れ、と心の中でエールを送った。

ついさっき、同じ舞台の上で、律己くんたちのクラスが堂々と劇をこなし、成長ぶりを保護者たちに見せつけたところだ。
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