クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「たぶん、これまであまり律己くんとかかわってこなかったみたいで、子供慣れしていないというか」

「じゃあ、本当におばあちゃんの家で暮らしてたんですね」

「それはちょっと、お父さんが無責任すぎる気も」

「でも、そうは言っても男の人に、いきなりひとりで子育ては難しいんだと思います。奥様を亡くしたショックも大きかっただろうし」


あれ、なんで私、あの人のフォローしているの。

みんなは「まあねえ」と納得したようで、しんみりうなずいている。


「とりあえず事情はわかりました。補食はなんとかします」


栄養士の田村(たむら)先生が、ふくよかな身体をどんと拳で叩いた。


「ありがとうございます!」

「いいってことです。子供たちの生活が最優先」


にっと笑う彼女は、園長に次ぐ年齢で、小学生の子供ふたりを育て中の、見た目からして肝っ玉母さんだ。

園児たちは毎日、彼女の作りたての食事を食べている。それがどんなに幸せなことか、いつか気づいてくれるといい。


「心配だなあ、朝ごはん、抜いて来る日も増えるかもね」

「今朝の様子はどうでした?」


ちょうど今日は石埜先生が早番だった。手元の記録簿を見ながら教えてくれる。


「時間通りに登園してきましたよ、お父さん、だいぶ眠そうで、でも忘れ物もありませんでしたし、衣服も持ち物もきれいでした」


ああ、よかった。


「お仕事、なにをされているんですかね?」

「さあ…」


そもそも、されているんですかね?

本部には所得証明が提出されているはずなので、調べればわかるだろうけれど、そこまでするほどのことでもない。子供たちが健やかに、元気にいてくれればいいのだ。

さあ、そろそろ園児をお昼寝から起こす時間だ。

これから降園が片づく時間までは、また目の回る忙しさ。

つかの間の大人同士の時間を惜しみつつ、私たちは腰を上げた。
< 17 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop