クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「あれっ、律己くん、そのシャツ新しいね、かっこいい」
午睡後にまず行うのは、全員をトイレに行かせ、着替えさせることだ。
リュックから着替えを取り出していた律己くんは、起き抜けのくしゃくしゃした顔で、にこりと微笑んだ。
「昨日、パパと、買い物したの」
「そうなの! おばあちゃんも一緒?」
首を振る。
ということは、お父さんとふたりで?
頑張りましたね、お父さん! 律己くんがしゃべっている。これは相当喜んでいる証拠ですよ!
シャツのタグには、かろうじて読める文字で名前が書いてある。
マジックで布に文字を書くのは、慣れないとなかなか難しい。最初はこんなふうになるよね、と微笑ましくなった。
「お父さんとどんなお話、したの?」
着替えを手伝いながら、なんの気なしに聞いたところ、律己くんはじっと私の顔を見つめ、「先生の話」と言った。
「保育園のお話ってこと?」
「エリカ先生の話」
「私の話?」
元舌打ち男、まさか子供相手に保育士の悪口じゃあるまいな…。
私の警戒には気づかず、小さなパンツを履きながら、律己くんが言った。
「先生の名前、なんていうんだって、パパが聞いたの」
四歳児の前で、本気で赤面する日が来ると思わなかった。
お父さん、気になったのなら、直接私に聞けばよかったじゃないですか。
担任の名前を知らないなんて、今さら言えなかったの?
だけど、知りたいと思ってくれたんですね。
そのことが嬉しい。園に少しでも関心を持ってくれたことが嬉しい。
「エリカ先生、お熱?」
何人もの子供にそう聞かれるほど、私の頬の赤みはなかなか引かなかった。