クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
おまけ
僕は小さい頃、かなり言葉の遅いほうだったんだって。
おばあちゃんは、表には出さないものの心配していたって後から聞いた。
お父さんは「したした、心配。すっごいした」って言っているけど、たぶんそうでもない。
お母さんはさすがたくさんの子供を見てきているだけあって、「絶対に大丈夫だと思ってた」って言ってくれる。僕はきっとお母さんのおかげで、自分が"周りに心配される子"だと感じることなく、のびのび成長できたんだと思う。
「なにぶつぶつ言ってんだよ、律己」
「お父さんこそ、なんでこんな朝早く起きてるの、珍しい」
まだ朝の6時半だというのに、リビングに現れたお父さんに僕はびっくりした。会社が始まるのが遅いから、登校前に顔を合わせることなんてまずない。
「今帰ってきたんだよ。午後まで寝るから起こすなよ」
「ちょうどよかった。僕の小さいときのこと、教えてよ」
「え?」
お父さんは訝しげに眉をひそめ、僕の食べていた朝ごはんから無断でベーコンをつまみ上げると、堂々とトーストまでむしって両方を合わせて持ち、半熟の目玉焼きの黄味をつけて、ぱくっと口に入れた。
満足そうにもぐもぐしながら、「なんだ、いきなり」とベンチタイプの椅子の、僕の隣に座る。
徹夜で仕事してきたんだろう、目が赤い。
「『二分の一成人式』の宿題だって、この間言ったよね? これまでの10年を振り返って、この先の10年でどうなりたいか作文にするの」
「ああ、現代の悪習。てっ!」
最後のは、洗濯物を入れたかごを持って洗面所から出てきたお母さんに、あからさまに背中をどつかれた声だ。
お父さんはお母さんには勝てないので、「くそ」と小さい声で言うだけ。"うちの長男"ってお母さんに呼ばれるのも仕方ない。
「そんなの、母さんのほうが詳しいだろ、なあっ」
ベランダで洗濯物を干しているお母さんに呼びかけたんだけど、肩越しに冷たい視線と、「私、あなたのお母さんじゃないです」という言葉をもらっただけだった。
一緒に入ってきた外の空気が部屋を冷やす。今日も寒い。