クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
お父さんはむっとして黙ってしまった。ふてくされているように見えるけど、これは怒られてしょげているのだ。僕にはわかる。
お母さんは見とれるような手際のよさで洗濯物を干してしまうと、かごを抱えて部屋の中に戻ってきた。
「人に丸投げしないで、自分が覚えていることだけでも教えてあげたらどう? "お父さん"」
お父さんがお母さんを"母さん"と呼ぶのはなにかを押しつけたいとき。お母さんが "お父さん"と呼ぶのは父親の自覚を促したいとき。
背中を丸めて、椅子の上にあぐらをかいていたお父さんは、不満そうな目つきをじろっとお母さんに投げた後、「じゃあ、なんか聞けよ、答えるから」と嫌そうに僕に言った。
「名前の由来は?」
「字でわかるだろ、己を律する人間になれって願いを込めたんだよ」
「律するってなに?」
「ちゃんとコントロールするってこと」
「お父さんが考えたの?」
お父さんが僕のコップに手を伸ばし、「牛乳かよ」と顔をしかめた。まるでそうなることがわかっていたみたいに、お母さんがキッチンから、コーヒーの入ったカップを持ってきて、お父さんの前に置いた。
「考えたのは、お前のお母さん」
「僕が生まれたとき、嬉しかった?」
「そりゃ、嬉しかったよ」
「卓己(たくみ)のときと、どっちが嬉しかった?」
卓己っていうのは、三歳になる僕の弟だ。かわいい。とにかくかわいい。僕はどうやら、小さい子が好きみたいだ。もうじきすごい寝ぐせ頭で起きてきて、保育園に行く準備をするはず。
お父さんは苦笑して、うーんと首をひねった。
「それなあ、ほんと、比べられないんだよ。どっちも嬉しかった。嬉しさの種類が違うっていうか」
「どんなふうに?」
「………」
なにか説明しかけて、お父さんは固まってしまった。
お母さんは見とれるような手際のよさで洗濯物を干してしまうと、かごを抱えて部屋の中に戻ってきた。
「人に丸投げしないで、自分が覚えていることだけでも教えてあげたらどう? "お父さん"」
お父さんがお母さんを"母さん"と呼ぶのはなにかを押しつけたいとき。お母さんが "お父さん"と呼ぶのは父親の自覚を促したいとき。
背中を丸めて、椅子の上にあぐらをかいていたお父さんは、不満そうな目つきをじろっとお母さんに投げた後、「じゃあ、なんか聞けよ、答えるから」と嫌そうに僕に言った。
「名前の由来は?」
「字でわかるだろ、己を律する人間になれって願いを込めたんだよ」
「律するってなに?」
「ちゃんとコントロールするってこと」
「お父さんが考えたの?」
お父さんが僕のコップに手を伸ばし、「牛乳かよ」と顔をしかめた。まるでそうなることがわかっていたみたいに、お母さんがキッチンから、コーヒーの入ったカップを持ってきて、お父さんの前に置いた。
「考えたのは、お前のお母さん」
「僕が生まれたとき、嬉しかった?」
「そりゃ、嬉しかったよ」
「卓己(たくみ)のときと、どっちが嬉しかった?」
卓己っていうのは、三歳になる僕の弟だ。かわいい。とにかくかわいい。僕はどうやら、小さい子が好きみたいだ。もうじきすごい寝ぐせ頭で起きてきて、保育園に行く準備をするはず。
お父さんは苦笑して、うーんと首をひねった。
「それなあ、ほんと、比べられないんだよ。どっちも嬉しかった。嬉しさの種類が違うっていうか」
「どんなふうに?」
「………」
なにか説明しかけて、お父さんは固まってしまった。