クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
お母さんがキッチンで洗い物をしながら、ちらっとお父さんに視線を送ったのが見えた。"バカ"って言っているような視線。

僕は気づかないふりをして、朝ごはんをきれいに食べ終え、牛乳を飲んだ。


「ごちそうさまでした」


お父さん、お母さん、ごめんね。

僕、知ってるんだ。

お父さんが、いわゆる本当のお父さんじゃないってこと。

僕はお父さんのお姉ちゃんの子で、死んじゃったお姉ちゃんの代わりにお父さんとおばあちゃんが僕を育ててくれたんだってこと。

たまに遊びに来るおじさんは、お父さんのお友達って言ってるけど、あの人が僕の、本当のお父さんなんだってこと。

なんで知っているのかって言うとね、お母さんが教えてくれるからなんだ。あ、今のお母さんじゃなくて、お父さんのお姉ちゃんのほう。

覚えてる? 僕が小さい頃、ママの夢を見たって言ったこと。

あの後も、僕はお父さんには知らせなかっただけで、何度も同じような夢を見た。大きくなってくると、だんだん夢の中の"お母さん"の言っていることが理解できるようになって、今では僕は、すべてを知っている。

正直、なんで"お母さん"が"お父さん"と結婚しなかったのかとか、そのあたりはまだよくわかっていないんだけど、とりあえず、僕にはお父さんとお母さんがふたりずついて、僕はそれを知らないことになっている──お母さんが元は僕の先生だったっていうのは、秘密じゃないし、僕も覚えてるから別だけど──ことはわかった。


「さ、卓己くん起こしてこようかな」


助け舟を出したのはお母さんだった。流しの水を止め、手を拭きながらにっこり笑う。


「律己くん、お皿、下げてもらっていい?」

「はあい」


隣でお父さんが、目に見えてほっとしている。わかりやすすぎる。


「俺も寝よ…」


弱々しく呟いて、コーヒーを飲み干すと、お母さんが向かった寝室にお父さんも行った。そこに卓己は寝ているのだ。

僕の部屋は別にある。お父さんとお母さんが結婚することになったとき、僕たちはこのマンションに引っ越してきて、僕の部屋もそのまま移した。
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