クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
僕の知る限り、あのふたりは結婚してからずっとあの調子だ。

ふたりして相手が好きでたまらないんだ。そこに僕と卓己も巻き込むもんだから、うちの中は年中幸せでふわふわ明るい色をしている。

隣のクラスは、担任の先生が、二分の一成人式をしないことに決めたんだって。お母さんしかいない子がいるから気を使ったんだって。その事情ごとみんなにばれちゃって、気を使ったって言えるのか疑問だよねえってその子本人も笑っていたけど、先生の気持ちはまあわかる、ありがたいと思うことにするよって納得してもいた。

それを言ったら僕の家だってなかなか複雑なわけだけど、先生はどうやら"両親が揃っているから大丈夫"とみなしたらしい。お母さんが血が繋がっていないっていう話は、してあるはずなんだけどね。

僕の話をするなら、やってもやらなくても構わない。お父さんがこういう行事を嫌うのはただの性格的なものだし、お母さんがそれをいさめるのは、教育を施す側と受ける側の間には一線が引かれなくてはならないことを、仕事柄知っているからだ。

ふたりが、僕の本当のお父さんとお母さんじゃないからっていう理由で、あれこれ聞かれるのを嫌がったりしない限り、僕は自分のこれまでの10年を知ることに抵抗はない。

むしろ知れば知るほど愛されていたことがわかるし、お父さんとお母さんが強く繋がっていることも感じるので、たくさん聞きたい。

僕は恵まれていて、幸せだ。

お父さんとお母さんが多めにいて、その中の誰も、僕をいらないなんて思っていない。みんなが僕を大事にしていて、できることが増えたり背が伸びたりするのを喜んでくれる。

エレベーターがなかなか来ないので、扉の前で足踏みをした。それを感じて急いでくれたみたいに、いきなりやってきたから、僕は飛び込んだ。

1階で降りて、コンシェルジュのおじさんに挨拶をして、マンションを出る。冬の乾いた空気は、なんでか走りたくなる。

天国のお母さん、僕は幸せです。

走れば誰より早いし、毎日一緒に笑える友達がいるし、あんな感じにラブラブなお父さんとお母さんがいるし。
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