クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「おはようございます、体調は変わりないですか?」
「元気です、見ての通り」
「あの、来月の保育体験への出欠は」
「すみません、帰りでいいですか、急いでて」
「あっはい。行ってらっしゃい」
春色のコートに身を包んだお母さんは、駆け出さんばかりの勢いで保育室を後にした。取り残された三歳児は、すぐに仲間の輪の中へ飛び込んでいく。
ええと、まだ来ていない子は…。
登園簿をチェックしていて気がついた。今のお母さん、お迎えの時刻を記入し忘れている。
「後で電話しないと」
子供がもう少し大きければ本人に聞くのだけれど、三歳ではまだ心もとない。
忘れないようメモを取っている間に、インタホンが鳴った。
背後からは元気なはしゃぎ声。
子供は朝も昼もなく、起きている限り全力だ。
壁には誕生月ごとに分けられた園児たちの名前。電車と花と動物と、その他さまざまな丸っこい切り絵が所狭しと張られている。
棚の上の時計を見た。
八時過ぎ。登園ラッシュのピークが、そろそろ訪れる。
よし、と子供に引っ張られたエプロンの紐を結び直し、お父さんと一緒に駆け込んできた男の子を迎えた。
ここは天使、兼、モンスターの生息する場所。
保育園。
* * *
「えっ、あのふたりが」
『連絡つく人に声かけてるんだ、二次会の詳細、後でメールするよ』
「ありがとう」
『エリカもいい加減、アカウント作れば?』
「考えとく」