クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
それに反応して、律己くんが、ぱっとこちらを振り向いた。

毎年行われる行事だから、お友達の保護者が先生として来る様子を、律己くんは何度も見ている。さすがにおばあちゃんがこれに参加することはなく、彼はきっと、ずっと我慢してきた。


「律己くん、パパ来てくれたら嬉しいよね」

「そういうの、ずるくないですか?」

「私の携帯、修理に二週間預かりの上8,000円近くかかるって言われて、もう買い替えるしかなかったんですよね」


お父さんが口をつぐんだ。


「もちろん、よそ見していた私が悪かったんですけど、別に何も舌打ちとかあんなふうに罵るとか? 仮にも一児の父親が」

「わかったわかった、わかりました」


勝った。

お父さんは渋い顔をして、「行けばいいんでしょ、行けば」と嫌々の常套句みたいなことを言いながら、間接的に私の味方をした律己くんをじろっと睨む。

律己くんは喜びと期待にはちきれそうな目でそれを迎えた。お父さんの眉間のしわが深くなった。大人はこれに勝てないようできている。


「今度、園にいらした時、参加の日にちを選んでください。一日二組までとなっているので、けっこう埋まってるんです」

「わかりました」

「じゃあ、失礼します」


達成感に満ちた気持ちで、買い物の続きに戻ろうとしたところを「あの」と呼び止められた。


「はい」

「…申し訳なかったです、携帯、ていうか」


続きがありそうな感じだったけれど、お父さんの言葉はそこで止まってしまった。私がなにも言わないからか、こっちを見たり床を見たり、落ち着かない。

笑いを噛み殺した。

ごめんなさい、ちょっと意地悪します。気にしないでください、とは言いません。大事な私の切り札だもの。


「おばあちゃんによろしくお伝えください」

「…はい」
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