クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
お父さんは居心地の悪そうな顔。律己くんは満面の笑み。

私は律己くんに手を振り、彼らと別れた。


* * *


五月の飛び石連休も、祝日以外は園は開けられる。

とはいえ休暇を取って家族旅行をする家庭もあれば、勤め先が飛び石を潰して大型連休を作っている保護者もいて、普段より登園児の人数は減る。

そんな中、律己くんはお父さんに連れられ、カレンダー通りに預けられてきた。


「今月も送り迎えは、お父さんみたいですね」

「そうね、おばあちゃん長引いているのかしら…」


園長が思案げに頬に手を当てる。

月初に、その月の延長保育費を徴収する。延長時間は自己申告制で、帰宅時刻に合わせて保護者が設定する。律己くんは、夜八時までで申請されていた。

おばあちゃんが迎えに来ていた頃は夕方五時には帰っていた。この三時間の違いは、律己くんにとって負担になるかもしれない。


「今のところ変わった様子はないわよね?」

「そうですね、元気に過ごしてます」


答えながら私は、もしかしたらこれにはおばあちゃんの思惑も働いているのではと考えた。これを機にお父さんを子育てに参加させて、律己くんと触れ合うように仕向けているんじゃないだろうか。

だとすると、心配すべきはお父さんの方かもしれない。あまりの負荷に、いきなり律己くんを放り出したりしなければいいけれど。

つい先日のことだった。律己くんの爪が伸びていたので、切ってくださいとお父さんにお願いしたところ、彼は絶句してしまった。

『爪』とつぶやいたきり、呆然としていた。まるで子供の爪が、時間と共に伸びるものだなんて考えもしなかった、という感じで。


『あの、大丈夫ですか? 園では切れないんです、規則で…』
 
『あ、いや、まあ、なんとかします』


翌朝、爪はきれいに切り揃えられていた。

どうにかして、なんとかしたんだろう。

きっと今お父さんは、あんなことの繰り返しで、次から次へ降ってくる課題に日々ぶつかっている。

やる気がなさそうに見えても、そういえば彼がクリアしてこなかったことはない。
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