クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「律己くん、この間、お爪、お父さんが切ってくれた?」


部屋の隅でブロックを積んでいた律己くんに尋ねた。彼は記憶を探るように自分の手を見て、にこっと笑い、わきわきと指を動かしてみせながらうなずいた。


* * *


話好きのお母さんに捕まったおかげで帰るのが遅くなってしまい、家路を急いだ。

特になにがあるわけでもないけれど、夜リラックスする時間が減ると、次の日てきめんにきつくなるのだ。

このあたり、若くない。

マンションの郵便受けを開けたら、封書が届いていた。

差出人を見て暗い気分になった。

母だ。



【エリカ、あなたのことだから、仕事も忙しく充実した日々を送っていることと思います。こちらに帰ってくる予定はないでしょうけれど…】


部屋に上がり、Tシャツと柔らかいルームパンツに着替え、お菓子とお茶を用意してから開けた手紙は、そんなよそよそしい書き出しだった。

特に重大な報告事項があるわけでもなく、家族や自分の近況を報告しつつ、私の様子に探りを入れている。

返事を待つとも電話をくれとも書いていない。だけどしなかったら私の評価は下がるんだろう。ただでさえ低い評価が。

さっさと葉書でも書いて出そうと思ったのだけれど、書くことも思い浮かばない。かといって直接声を聞く気にはまったくならないので電話なんてとんでもない。

ため息をついて、手紙を引き出しに放り込んだ。

母はいまだに私を認めておらず、そのことを隠す気もない。

私は母を理解できない。


* * *


「一段と眠そうですね…」

「ちょっと…」


連休明け、律己くんのお父さんが保育士として過ごす日がやってきた。

普段より早く登園してきたお父さんは、今にも寝てしまいそうな様子だ。
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