クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
有馬さんの手が、ふと止まった。

園長は気づかず、ほかのお母さんたちにしたのと同じ話を、子供たちの服をたたみながら続けている。警戒心に満ちた声がそれを遮った。


「…そのために呼んだんですか」

「え?」


園長が顔を上げた。


「そんなことのために、俺を呼んだんですか」

「そんなことって、有馬さん」

「俺は別に、保育士の仕事が楽だなんて思ってないし、どんな仕事だって真剣にやれば、それなりに大変で、努力は絶対必要です」


私は目の前の子の着替えに集中しているふりをしながら、耳を澄ましていた。

嫌な予感がした。

彼は怒っている。とても。


「クレームとか揉め事とか、俺みたいなのもいて、大変なんだろうと思います。でもそれを、こういう形でわからせようとするのは」


続く言葉を探すように、眉間にしわを寄せて黙ってしまう。


「…俺は、好きじゃない」

「有馬さん…」

「今日、来たのは、俺は…てっきり」


有馬さんはうつむいて、口を閉ざしてしまった。

園長はびっくりしてしまったらしく、「あら」とか「違うんですよ」とかフォローの言葉を探している。


「有馬さん、もうすぐ保育参加の時間が終わります」


いきなり口を挟んだ私に、有馬さんがきょとんとした。


「あ、そうですか」

「はい。十五時までなので、この後みんなでおやつを食べたら終わりです。早いですが、律己くんと帰ってあげてください」

「わかりました。そういうスケジュールなんですね」

「はい、お疲れ様でした。ええと、こちらでおやつの準備を手伝っていただいていいですか?」
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