クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
高校のクラスメイト同士が結婚するらしい。

当時からかろうじて繋がっている友人が、わざわざ電話をくれた。

ソーシャルなんたらと呼ばれるものから距離を置いている私は、こういうとき手間のかかる存在だろう。だけど使いもしないことがわかっているものに、仮想の自分を置いておくというのも、どうも性に合わない。

仕事帰り、小声で携帯を使いながら、スーパーのお総菜売り場をうろうろする。お腹は空いているものの、なにが食べたいわけでもない。


『大学のとき付き合いだしたんだから、ようやくって感じだよね』

「ようやくとか言われる歳なんだね」

『エリカー、私ら29だよ。ようやくどころか今さらって言われるよ、そのうち』


二次会はさながら同窓会になるだろう。特に会いたい人がいるわけじゃないけれど、ここで不参加を決め込むほど礼儀知らずじゃない。


『じゃ、当日会おうね』

「うん。連絡ありがと」


携帯をバッグにしまおうとしたとき、人にぶつかってしまった。


「あっ、すみません」


手から携帯が飛ぶ。続いて嫌な音がした。

うわっ、たぶん、割れた。

慌てて拾おうとするも、どこかに滑っていってしまったらしく見当たらない。

うろうろしながら床の上を探していたら、突然目の前にヒビだらけの携帯が突き出された。

無残な姿に、受け取るのも忘れ見入ってしまう。


「さっさと取れよ、あんたんだろ」


そこに鋭い声が投げられた。

驚いて顔を上げた。男の人が、こちらを睨んでいた。


「あっ…すみません」


履き古した感じのジーンズに、これまたこだわりのなさそうな長袖のTシャツ。会社帰りのスーツ姿が多いこの時間帯、彼の装いは浮いている。手元のかごには、ビールの六本ケースがふたつ、いや三つ。

彼は焦れたのか、前置きもなく、私に携帯を放った。
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