クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「あっ…、おはようございます」


会うのは保育参加以来で、私はちょっと挙動不審になった。感情的なところを見せてしまった恥ずかしさが、一瞬でよみがえってきたからだ。

有馬さんは気にする様子もない。「じゃーな」と律己くんをこちらに押し出す。


「お願いします」

「はい。体調は変わりありませんか?」


律己くんの手を取ったとき、おやっと思った。


「律己くん、お熱ない?」

「え」

「有馬さん、朝、体温測りました?」

「体温?」


登園簿に時刻を記入しながら、お父さんがきょとんとする。

測っていないですよね、はい。


「ちょっと、お熱測ろうか」


保育園の子供は体温を測るのに慣れているので、体温計を見せただけで律己くんは、挟みやすいよう左腕を上げてくれる。

七度八分。

やっぱり…。


「すみません、七度五分以上あると、お預かりできないんです…」


ああ、こんなこと言いたくない。だけど決まりだ。

有馬さんは予想通り、びっくりしたようだった。


「このまま連れて帰るってことですか?」


こんなに元気なのに?とその顔が言っている。

気持ちはわかる。子供は多少の熱があっても普段と同じに動けることが多い。そのため「このくらいなら預かれるでしょ」と主張する保護者も多い。

有馬さんも、困惑と苛立ちの間くらいの顔をしている。

そりゃそうだ、今から急きょ、会社を休まなきゃいけないのだ。彼の仕事の事情を聞いてしまった後だけに、いたたまれない。
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