クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
園庭を持たない私たちの保育園は、規定の距離内に公園があることが市の認可取得の条件になっている。該当する公園は四つほどあって、同じ事情の近隣の保育園と相談しながら、日々ローテーションしつつ使っている。

私は園児たちに砂場用の玩具を配りながら、律己くんを呼んだ。


「おいで、一緒にお砂場遊びしよう」


律己くんが許可を求めるように父親を見る。有馬さんはパスするように私を見た。


「私たちが見てますから、その間ゆっくりしててください」

「でも」

「寝ちゃっていいですよ。帰るときに起こしてあげます」


預かれなかったお詫び、と言ったら変だけど。少しでも手助けさせてほしい。

そんな思いが伝わったのか、有馬さんは申し訳なさそうに微笑み、「じゃあお言葉に甘えて」と律己くんをこちらによこした。

次に見たときには、彼は熱心に新聞を読んでいた。その次に見たときには手すりに頬杖をついてうとうとしていて、今見たらついにベンチの上に仰向けになって寝ている。

もはや失業中の人にしか見えない。プログラマってみんなあんな感じなんだろうか。


「よほど眠かったんですねえ」


原本先生が、その様子を見守りながら笑った。


「お仕事がハードみたい」

「やっぱりお父さんだけって、きついでしょうね」 


そうだと思う。

お母さんだけというのも大変だろうけど、男の人の方がより、会社での理解を得られずに苦しいんじゃないだろうか。

わずかな間だけ勤めた記憶から、そんな想像をした。




園に帰る時間をぎりぎりまで引っ張って、もう公園を出ないと給食に間に合わない、という時まで有馬さんには寝ていてもらった。

『私が行きます』と立候補した原本先生がそっと起こしたところ、彼はがばっと跳ね起き、状況が飲み込めなかったらしく、ぽかんと私たちを眺めていた。
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