クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
突然、金切声が響いた。

ふたりで飛び上がるほどびっくりした。振り向くと、壁をさするようにしておばあちゃんがこちらに歩いてくる。杖を振り回しながら。


「お前、先生の前で、なんて恰好…!」

「うっせえ、こっちだって焦ってんだよ!」

「心配で来てみたら、来てみたら…来てよかった…」

「おばあちゃん、無理しちゃだめですよ」


私は門を出て、彼女に駆け寄った。手を貸した私に、「申し訳ない」と繰り返すので、なんだか有馬さんに乱暴でもされた気になってしまう。

おばあちゃんは玄関にたどり着くなり、有馬さんの脚を杖でひっぱたいた。


「いって!」

「服を着なさい、見苦しい!」

「てめ、俺、病人…」

「子供の前でくらい、もう少しましな口をきけないの!?」


追い立てられるようにして部屋に上がった彼が、私からおばあちゃんを引き取る。彼女に肩を貸しながら、遠慮がちに振り返った顔は、熱のせいか恥ずかしさのせいか、赤い。


「あの、ありがとうございました」

「いえ、おふたりとも、お大事にしてください。あっ、鍵、お返しします」

「あ、どうも」

「律己くん、バイバイ」


一連の騒動を楽しそうに見ていた律己くんが、手を振ってくれた。

ドアが閉まってからも、有馬さんとおばあちゃんが言い合う声が聞こえる。

いいなあ。

そんな痛みが胸を刺した。


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