クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
05. 変化、それとも
「どうでした…?」
「地獄でした…」
有馬さんが力なく答えた。
あのちょっとした騒動から一週間ほど律己くんは園を休んだ。
お父さんはあれで、おばあちゃんは再び寝ついてしまった。律己くん本人はいたって元気だったものの、誰も登降園の面倒を見られなかったのだ。
久し振りに律己くんを伴って登園してきた有馬さんは、心なしか痩せて見える。
「湿疹かゆいし、顔真っ赤でバカみたいだし、身体中痛いし…」
「お仕事は大丈夫でしたか」
「熱が下がれば人に伝染らないって病院で聞いたんで、後半は半日くらいずつ出勤してたんです。律己は母の家に預けて」
それは、全員が大変だったに違いない。
律己くんも彼なりに家庭の非常事態なのを感じていたようで、少しおとなしい。
「母も家で見てるくらいはできますが、外出はさせられなかったんで、こいつ今日、登園するのをすごく楽しみにしてて」
「そっか、いっぱい遊ぼうね、律己くん」
大きなリュックを背負った律己くんが、晴れやかに笑った。
「じゃあ、お願いします」
「あ、そうだ、有馬さん」
戸口まで行ったところで、有馬さんが振り返る。
「ご自身の感染症の記録ってわかります? おたふく風邪とか水ぼうそうとか」
「俺の?」
「こうして保育園にいらしてると、子供から伝染る可能性が高いです。大人は症状がひどいので、まだかかっていないものは予防接種を受けたほうが」
記憶を探っているらしく、目を宙にさまよわせている。
「お母様から母子手帳を見せてもらうといいですよ、罹患も予防接種も、そこに記録されていますから」
「俺の、母子手帳? が、あるんですか」
「…そりゃ、ありますよ」