クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
母子健康手帳は、私たちの産まれるずっと前からある制度だ。

思いもよらないことだったらしく、有馬さんはへーと目を見開いた。


「今度、聞いてみます」

「行ってらっしゃい」


声をかけると、やけに照れくさそうな顔になってうなずく。ずっとひとり暮らしで、そう言って見送られることも久しくなかったに違いない。

奥様を亡くす前の彼は、どんな感じだったんだろう。


「あいた」


足になにかがぶつかってきた。スポンジのボールだ。

振り返ると、律己くんがお友達とバットのおもちゃで遊んでいるところだった。


「野球してるの?」


それっぽい構えをしながら彼がうなずく。

相手の子がボールを投げた。見当違いの場所を振っておきながら、律己くんはふうと満足そうな息をつく。


「誰のまね?」

「ふくどめ」


きっぱりした答えに笑ってしまった。

律己くんがこんな遊びをするのを見たことがない。以前暮らしていたおばあちゃんの家では、誰も野球中継なんて見なかったんだろう。

家庭のことって、意外とこうして筒抜けなのだ。

気をつけてくださいね、有馬さん。

私たち、けっこういろいろ知っています。


* * *


「はあ?」

『この間見てみて、いい歳してあんな生活、やっぱりよくないなと思ったのよ。あなたが保育士だってことを、先方はたいそう気に入ってて』

「賭けてもいいけど、それ子供好きと混同されてるわ」

『違うの?』
< 47 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop