クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
説明する気にもならなかった。

母は知人や親戚を当たって、"私にふさわしい人"とやらを見つけたらしい。


「結婚相手くらい自分で見つけます。そこまで気にしてくれなくていいから」

『見つからないからあの状況なんでしょ?』


かちんと来た。あの状況ってなんだ、失礼な。

誰にも後ろ指をさされない職に就いて、自分を養うだけの収入があって、ほかになにが必要だっていうの。


「とにかく、その人には会わない」

『そんな、どうお断りしろというの』

「自分で考えなさいよ、勝手に話を進めたのが悪いんでしょ」

『エリカのためを思ったのに』


嘘だ。自身がキャリアもあって、それをなげうったというドラマもあって、主婦としての能力にも満足していて、子供もいて。

あと足りないのは、孫くらいって気づいたんでしょ。

おおかたお友達からそういう報告が聞こえ始めて、自分がまだ手に入れていないものに思い当たって、欲しくなったんでしょ。

そう考えたらなおのこと、お見合いなんてしたくない。娘がこの歳で独身であるのが母の汚点なら、私はむしろ喜んでそれを貫く。


「私のためを思うなら、ほっといて」

『あなたのその意固地は、お父さん似ね』

「そうでしょうね」


あなたの世界では、都合の悪いものはすべて人のせいだものね。

悲しそうなため息をたっぷり聞かせてから、母は電話を切った。

ひとりきりの部屋で、ぐったりとテーブルに伏した。

兄弟がいなくてよかった。あんな人を母に持つのは、私ひとりで十分だ。

嫌だ。

母とかかわると、どんどん嫌な人間になる自分が嫌だ。疑り深くて攻撃的な、そんな自分を見なきゃいけないのが嫌だ。

疲れた。
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