クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
* * *


「まなちゃんがやったの。ブロックでわたしのひざ、ぶった」

「わたし、やってない」


うーん。

ふたり五歳の女の子の言い分を聞きながら、悩んでしまった。


「うそ! わたしの使ってたブロック取り上げて、ぶったでしょ」

「知らない」

「見てよ、ひざも赤くなってるの」

「知らない、じんましんじゃない?」


どこでそんなボキャブラリーを。

男の子に比べると、女の子の成長は本当に早い。子供に触れていない大人が想像するより、はるかに複雑で屈折した感情を、もう彼女らは持っている。


「先生、後でもう一度、同じお話をしに来るね。どんなことがあったのか、ふたりでそれまでにたくさん考えておいてくれる?」

「わたし、やってない」


言い張られて、ぶたれたと訴えた子のほうは、自分の記憶に自信がなくなったように黙ってしまった。

私はふたりの背中を叩いて、遊びの輪に戻した。

子供は子供で、いろいろある。彼らなりの社会の中で、摩擦も派閥もあれば、仲間意識も競争意識もある。早い子は、それを隠すことすら覚えている。




「結局、どういう経緯だったんですか?」

「まなちゃんがわざとやったそうです。怒られるのが嫌だから嘘ついたって、後で私のところに言いに来ました」


事務室の奥にあるロッカールームで、一緒になった石埜先生と、狭いスペースを譲り合って着替える。


「じんましんっていうミスリードをするところが、なんていうか」

「それが」


ついため息が漏れた。


「お母さんとお話ししてわかったんですが、小学生のお姉ちゃんが重いじんましん持ちなんですって。最近特に酷くて、お母さんもかかりきりだったらしくて」

「それで『知らない、じんましんじゃない?』か。考えさせられるね」


私はうなずきながら髪をほどいた。家に帰るだけなので、結んだままでもなんだ問題はないのだけれど、髪を下ろすのは"仕事が終わったよ"という身体への合図だ。
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