クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
石埜先生が控えめなメイクを直しながらつぶやく。


「子供の言動は、家庭を映す鏡ですよね」


ぎくっとした。

私も、知らない間に、あの母を映しているんだろうか。


「わっ、有馬さん?」

「あ、こんちは」


事務室から廊下へ出ようと引き戸を開けたら、彼が立っていたので驚いた。足元では律己くんが靴下を履いている。


「お早いですね」

「まだ本調子じゃないんで。大事を取って帰ってきたんです」


有馬さんは、引き戸に張り出されている写真を指さした。


「これ、注文できるんですよね?」

「はい、欲しい写真の番号を封筒に書いて、お金と一緒にくだされば」

「ふうん…」


今掲示されているのは、先日の消防訓練の写真だ。近所の消防署が協力的で、本物の消防車を園の目の前に持ってきて、子供たちを乗せたり訓練の実演をしてくれたりする。

律己くんも大はしゃぎで、いい写真がたくさん撮れた。


「今週が〆切なので、ご希望でしたらお早めに…あ、こら!」


四歳の男の子がふたり、廊下で鬼ごっこを始めた。


「園の中は走りません!」


私はひとりを捕まえ、保育室に戻した。

中を覗いたら、引き渡し待ちの保護者の列ができている。うわっ、いつの間に。

降園ラッシュは、登園ラッシュよりカオスだ。ひとりひとり保護者に活動報告をするため時間はかかるし、子供たちはお迎えでテンションが高い。

そして保護者は朝より時間に余裕があるので、この機を使ってと保育士に相談事や質問を持ちかけたりする。
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