クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
向こうの顔も見ずに、頭だけ下げてすたすたとその場を去ってしまった。うう、恥ずかしい。振り返れない。

エレベーターの前まで来て、ようやく一呼吸つけたところで、そろりと有馬さんの部屋のほうを見てみた。

彼はまだ同じ場所にいた。

私が振り向くとは思っていなかったらしい。フェンスにぼんやり腕をかけてこちらを見ていた彼は、はっと身体を起こし、照れ隠しみたいに小さく手を振った。

ちょうどそのとき、チン、とエレベーターが到着を告げた。

私はぼんやりしたまま、そっくり同じように振り返し。

有馬さんの電話番号を教えてください、連絡先として園に登録されているのはおばあちゃんの番号だけなんです、と言おうと思っていたのを、すっかり忘れていたことに気がついた。


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