クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
06. めくれた心
「本部には、まだなんの連絡もないそうです」
翌日、園長からの報告に、ほっと安堵の息をついた。
翔太くんは休んでいる。休むという電話は朝お母さんからあり、対応した先生によれば、声を聞く限りでは普通の様子だったということだ。
「『しばらく前歯が使えないので、給食を配慮してもらわなければならない』とのことでした。田村先生、対応は可能?」
「配慮というのが、?み切らなくて済むように、という意味でしたら、はい。細かく切って出したり、場合によっては乳児クラスの食材を使ったりして、なんとかします」
「ありがとう。当面は活動中も気をつけていてあげることが増えると思います。本人と、それから保護者とコミュニケーションをよく取りましょう」
はい、と全員がうなずき、昼の職員会議が終わった。
私の勤務が終わる直前、有馬さんが保育室の戸口に現れた。
やっぱりいつもより早いのは、まだ体調が戻りきっていないせいだろう。
「お帰りなさい」
朝は私は室内にいたので、彼とは会っていない。昨日の今日で、ちょっとした気恥ずかしさを覚えつつ挨拶したら、彼も同じ状態だったようで、照れくさそうな微笑みが返ってきた。
「律己くん、お父さんだよ」
背後で遊んでいた律己くんを呼んで、バインダーから彼の分の活動記録を取り出す。報告しようと顔を上げて、あっと思った。有馬さんの手に、スーパーの袋がぶら下がっているのだ。
私の顔色が変わったことに気づいたらしい。有馬さんが不思議そうに自分の手元を見下ろす。
「なんですか?」
「すみません、それ…」
ええと、どうするのがいいんだろう。ええっと…。
「…ほかの保育士やお母さんに見つからないようにしていただけますか」
「無理でしょ」