クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
有馬さんは足元の律己くんを見た。

園から直接来たようで、リュックを背負っている。

八時過ぎという時刻から察するに、買い物は迎えの後で、を実行してくれたわけではなく、単に仕事から帰るのがぎりぎりになってしまったんだろう。


「じゃあ、ちょっとあっちで食わせてきます」

「すみません」


スーパーと同じ建物の中に、九時まで営業しているコーヒーショップがある。有馬さんは律己くんをそこへ連れていき、サンドイッチとジュースをあてがって出てきた。


「なんですか?」

「ちょっとお話をしたくて、あの、ここでもいいでしょうか」


律己くんから目を離すわけにはいかない。私がコーヒーショップのすぐ脇にあるベンチを指さすと、有馬さんはうなずいた。


「で、なんですか」

「あの、おばあちゃんはどうされたんですか? よかったら事情というのを、伺えないかと…」


私は左隣に座った有馬さんを覗き込んだ。

Tシャツにジーンズ姿の彼は、視線を床に落として黙っている。


「あの…」

「母が引っ越すことになったんです」


えっ。


「というかもう移り住んでます。母の兄が要介護になって。結婚してなくて、ひとり暮らしなんで、母が行くしかなくて」

「…お父様は」

「残ってます。母もたまに父の身の回りの世話をしに帰ってくる予定です。でもとても、律己の面倒までは見られない」


有馬さんは軽く開いた脚の間で、両手を組んでいる。その手を見つめながら、また口をつぐんだ。


「…土曜保育を申し込まれたんですね」

「仕事が佳境なんです」
< 63 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop