クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
きっとみんなこうなんだ。

仕事と家庭、自分と子供との間で、ぎりぎり成立させられるラインを見つけて、そこを危なっかしく歩いている。それは少しでもなにか崩れたら、続けざまにすべて崩壊するくらい際どいバランスで、その張り詰めた糸の一端は私たち保育者の手にも握られている。

私たちはそれを知らずに、糸を切ってしまうことがある。

きっとこれまでにも、気づかなかっただけで、何本もの糸を切ってきた。なぜ気づかなかったか。それは、切られた親たちが、声を上げる力もなくしていたからだ。


「ごめんなさい……」


たまらず、震えた声が漏れた。

ごめんなさい。

ごめんなさい、有馬さん。

有馬さんが、はっと表情を動かした。瞳から攻撃的な色が消え、いつもの彼が戻ってきたのがわかる。戸惑ったように視線を揺らし、またうつむいた。


「すみません、エリカ先生を責めたかったんじゃないです」

「いいんです。あの、聞かせてください。思ってること全部」


彼が力なく首を振る。

私は、手を差し伸べることすらも拒絶されたような気がして、ショックだった。


「あの、こ、今度の土曜、私が担当するんです」


どうして、こんなことくらいしか言えないんだろう。


「律己くんの好きな遊び、たくさん知ってますから、一日使って、全部やります」


有馬さんが、顔をこちらに向けた。


「お父さんが迎えに来ても、帰りたくないって言うくらい、本気で…」


彼の目が見開かれ、「先生」と戸惑った声を出す。


「なんで先生が泣くんですか」

「な、泣いてはないです、ごめんなさい、ちょっと、あの」

「俺、エリカ先生のことを言ったわけじゃ…」

「わかってます。わかってます。でも」
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