クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「お世話様です」
「あっ、お帰りなさい」
夜8時、やってきたのは有馬さんでなく、おばあちゃんだった。「ご無沙汰しています」と微笑む姿は、少し疲れているように見える。介護というものは、やっぱり心身共に大変なんだろう。
「今日は、どうなさったんですか」
「仕事でどうしても間に合わないと、間際に連絡がありまして。ちょうど主人の面倒を見にこっちに来ている日だったものですから」
玄関でそんな話をしていると、律己くんが保育室から顔を出し、おばあちゃんを確認してびっくりした表情になり、あたふたと引っ込んだ。たぶん荷物を取りに戻ったのだ。
「またお父さんが熱を出したと心配しているのかも」
「ああいうところ、篤史の小さな頃にそっくりだわ。引っ込み思案で、いつもなにか心配しているような、気の小さな子だったんです」
「そうなんですか!」
それは意外!
「ガキ大将だったのかなあ、とか」
「とんでもない。上の子の陰にいつも隠れて、お気に入りのタオルを握りしめていないと眠れないような、そんな子よ」
ころころと笑いながら、本人はさぞ人に知られたくないであろうかわいらしいエピソードを教えてくれる。
わあ、有馬さん、そういう子供だったんだ。これ聞いちゃってよかったのかな。
「有馬さん、ご兄姉がいらしたんですね」
「ええ……あら、律己、今日は金曜日よ。上履きや毛布は?」
リュックだけを背負って出てきた律己くんは、おばあちゃんの問いかけに戸惑いを見せ、私を見る。私はおばあちゃんに説明した。
「律己くんは明日も保育なんです」
「土曜なのに?」
「最近、お忙しいみたいで」
律己くんが靴を履くのを手伝いながら、おばあちゃんが沈黙する。
私は内心、ひやっとした。この世代の方で、今の親たちが子供を預けて仕事仕事、という状況なのを、快く思っていない人は少なからずいるからだ。
けれど彼女は、ふうとひとつ息をついただけだった。