クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「身体を壊さないといいけれど」


有馬さんの家で帰りを待つんだろう、マンションのエントランスのほうへ向かうふたりを見送りながら、ほっと心が軽くなるのを感じていた。

有馬さんが責められなくてよかった。律己くんが保育園に長く預けられることを、気の毒がられなくてよかった。

本当に、私はいったいどの立場にいるんだろう。

なにを正解と思ってこの仕事をすればいいのか、最近わからない。そもそも正解なんて、最初からないのかもしれないけど。

そうだ、と保育士になろうと決心した頃のことを思い出した。

私は、人がなにを"正解"と思っているのか、知りたくてこの世界に入ったんだった。


* * *


「おはようございます」

「おはようございます…、あれ、今日ってエリカ先生でした?」


翌朝、律己くんを伴って園にやってきた有馬さんが、きょとんとした。


「交代があったんです」

「そうなんですか。昨日、すみませんでした、帰れなくて」

「お仕事、大変ですね」


しゃがみ込んで、律己くんの身体をチェックしながら話しかけると、登園簿に書き込んでいた有馬さんが、ちらっと私を見下ろして笑った。


「そろそろヤマ越えそうなんで。土曜に預ける時間は減らせそうです」

「そうですか!」


思わず弾んだ声を出してしまってから、はっとした。

案の定、有馬さんはなんともいえない表情で「これまですみませんでした」と曖昧に笑む。

違うんです、あの。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「有馬さん!」


出ていこうとした彼の腕を思わず掴み、引き留めた。

彼が驚いた顔で振り返る。
< 71 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop