クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
私は屈み込み、「夜はおばあちゃんといたの?」と聞いた。彼がうなずく。


「ばあばは"しはつ"に乗らなきゃならなくて、だからパパは帰ってきたの」

「お父さん、忙しいんだねえ」


じゃあ家ではほとんど寝ないまま、また会社に出かけていったってことか。以前言っていた通り、律己くんのことさえなければ、会社に泊まり込んでいるような状況なんだろう。

有馬さんが出ていった玄関のドアを見つめ、律己くんがつぶやく。


「しごとしてるパパは、ずっとパチパチしてて、あんまり笑わない」

「パチパチ?」


尋ねると彼が、両手を胸の前に持ってきて、ピアノを弾くような感じで指を動かした。わかった、パソコンだ。


「もっとお外で遊んだほうがいいんじゃないかなあ?」


真剣に言うので、笑ってしまった。

律己くんは大まじめに、「友達いないのかなあ?」と硬い表情で玄関を睨んでいる。

私は笑ったことを反省しながら、小さな肩を叩いた。


「お父さんは、一所懸命仕事してるんだよ。笑うと間違えちゃうから、笑わないように気をつけてるんだと思うよ」


半信半疑の顔がこちらを見上げる。


「会社では、休み時間っていう遊べる時間があるから、そういうときはお友達と笑ってると思うよ」


果たしてそんなタイプだろうか、と我ながら疑問ではあったものの、律己くんはその説明にひとまず満足してくれたようで、思案げな顔つきながらも、うなずいてくれた。


「お仕度できたら、公園行こうか」


今日来る園児は律己くんだけだ。彼の好きな公園に行こう。

律己くんはぱっと顔を輝かせ、いそいそとリュックをしまいにロッカーへ行き、水筒を斜めに提げ、園児帽をかぶって戻ってきた。
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