クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
外は暑い。

玄関を出たとたんに炙るような日差しに出迎えられ、思わずうっと呻いてしまう。

律己くんが水筒のふたを開け、口をつけた。瞬間、「!」という驚きが彼の顔を横切った。


「どうしたの?」


彼は答えず、さっと向こうを向いてしまう。

なんだろう、怪しい。


「教えてよ」


背中をつつくと、そろりと顔だけこちらを向いた。


「教えてくれる?」

「エリカ先生なら、怒らない?」

「怒る? なにを?」


大事そうに抱えていた水筒を、ふたを開けてこちらに差し出す。どういうことかと口に顔を近づけて、わかった。これ、カルピスだ。

園では、水筒に入れるのは水か麦茶のみという規則になっている。土曜日くらいはと、有馬さんが律己くんの好きなものを入れたんだろう。

それと、もしかしたら、一緒にいてあげられないお詫びの気持ちも込めて。

私は不安そうにしている律己くんに、指を立てて約束した。


「先生、内緒にするよ。絶対ほかの先生には言わない」

「パパを怒らない?」

「怒らない。今日はそれ、飲んでていいよ」


見つけたら捨ててしまう保育士もいる。律己くんは心底安心したようで、水筒を抱いて顔をほころばせた。

怒らないよ。むしろ褒めてあげたい、もちろんみんなには内緒でね。

あまり会話の得意じゃないふたりの、これもひとつのコミュニケーションの形。規則違反とはいえ、こういう違反なら、たまにはいいじゃない。

ああでも、今後は私がいるときだけにしてくださいって、それは言わないとダメかな。それから、今朝言ってくれてもよかったのにって、それも言いたい。
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