クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「行こっか」


伸ばした手の先を、小さな手が握る。

この温かさを、有馬さんもきっと愛しく感じている。

その気持ちを途切れさせないお手伝いができれば。

青い空を見上げて、そんなことを思った。


* * *


「看護師さんですか?」


平日の昼間に買い物をしていると、店員さんによくそう言われる。たまたまそれが火曜日だったりすると「美容師さんですか?」になる。

いえ保育士です、と答えれば済むのだけど、そもそもそういう「あなたに関係あります?」としか言えないような話題で会話を切り出されるのが好きじゃない私は、見ていたワンピースをラックに戻し、その店を出た。

これでこの百貨店のめぼしい店は見てしまったことになる。

月末に控えている、結婚式の二次会に着ていく服を買わなければならないのだ。数年前にあった結婚式ラッシュが落ち着いてしまったため、気づくと今着られる服がなかった。

年齢的にも、二十代半ばの頃と同じテンションのものは着にくい。そして二次会というのも距離感が難しい。

どうしようかな、と悩みつつ、吹き抜けの周りを囲むベンチのひとつに腰を下ろしたとき、携帯が震えた。


「はい」

『不機嫌な声出すんじゃないのよ、いい大人が』

「出してないわよ。なんの用?」


堂々と嘘をつき、なんとなく防御姿勢を取る気分で脚を組んだ。


『お盆の予定を聞こうと思って』

「仕事」

『また?』

「保育園に夏休みなんてないの、知ってるでしょう?」

『そうだけど。あなたもう勤め始めて何年目? そういうときのシフトは、若手がやるものなんじゃないの?』

「バカ言わないで。園長だって持ち回りでちゃんと出るわよ」
< 75 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop