クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
『あなたが帰ってくるなら、従妹のほら、なえちゃん、旦那さんを連れて遊びに来てくれるっていうから、会わせようと思ったのよ』

「なえちゃん自身にもう何年も会ってないのに、なんでいきなり旦那さんに会う必要があるのかわからないんだけど」

『新婚の従妹におめでとうも言えないの?』

「おめでとう」

『本当におめでたいわよね、結婚で幸せになるのって、本人たちだけじゃないのよ』

「忙しいから、またね」

『台風が近づいてきてるわ。ベランダに物を置いているなら中に入れなさい』

「ベランダなんて立派なもの、ないわよ。この間自分の目で確かめたでしょ」


一方的に通話を切ってやりたかったけれど、それはそれでつけ入る隙を与えてしまいそうなので、「じゃあね」と儀礼的に言った。

脚を投げ出し、ふう、と息をついて天井を仰いだ。

まばゆくも目に優しい間接照明。そんなところにもグリーンが飾られていることに初めて気づいた。

どうして私と母はこうなんだろう。

たった四歳の律己くんですら、父親を慮る心を持っているのに。

あれほど子供に興味のなさそうだった有馬さんですら、少しずつ少しずつ、お父さんらしくなってきているのに。

いつか歩み寄れる日が来るんだろうか。

…母が変われば、あるいは。

私がそう思っている時点で、そんな日は一生来ないと思えた。


* * *


「不穏な空気ですねえ」

「えっ、ごめん」

「…天気のことですよ」


そうか。

原本先生から怪訝そうな目つきをもらいながら、保育室の窓の外に目をやった。

確かに、お昼すぎというのに、夕方みたいに空が暗い。
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