クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「今日はみんな早く迎えに帰ってきてくれるといいんですけど」

「どうだろうねえ」

「電車が止まったりしたら残業ですよー」


もー、とぼやきながら給食の終わった食器をワゴンに載せ、調理室へ押していく。

空模様を見ながら、保育主任でもある石埜先生と、後でシフトの相談をしておいた方がよさそうだと考えた。




天候は予報より早く崩れた。

4時前には大粒の雨が降り出し、強風と相まって外は小さな子なら吹き飛ばされてしまいそうな風雨となった。


「電車、ダイヤが乱れ始めてるみたいです」

「やっぱり…」


保護者から続々と、迎えが遅れる旨の連絡が来始める。逆に「会社が早退を推奨してくれて」という人も少しいて、こういうとき、働く環境と子育てというものが直結しているのを感じる。

基本の保育時間が終わる夕方6時になっても、園児の半数ほどが帰宅できていなかった。


「補食、人数分作っちゃいますね。アレルギーの子は残ってないですよね」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


そこに誰からともなく新情報が飛び込んできた。


「電車、完全に運休になったみたいです」


ああー、という絶望の声が保育士の間に上がった。

ここは駅から徒歩3分ほどの立地であるため、入園を希望するのは基本的に電車通勤の保護者だ。すなわち今、みんな帰ってこられなくなった。

7時になり、8時になった。

いつもであれば、最後の園児も帰る時刻だ。だけどまだ、「電車が動き次第帰ります」という連絡を残したまま迎えに来ていない家庭が6名。そのうち二家庭が兄弟で預けているので、残っている園児は8名。その中に律己くんもいた。


「乳児は一度寝かせましょう」


園長の指示に、手の空いている保育士が昼寝の準備をする。

そのとき、玄関ドアのロックが解除される音がした。
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