クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
私はプレイヤーに、運動会で使うダンスのCDを入れた。曲が始まると、窓を叩きつける風雨の音が遠ざかり、ほっとする。


「眠くない?」

「眠くない。おなかすいた」

「そっか、ごはん食べなきゃね」


騒動ですっかり忘れていた。

こんなこともあろうかと、ミカ先生が作っていってくれた簡単な食事がある。私は莉々ちゃんの手を引いて調理室に行き、冷蔵庫からお皿を取り出してレンジにかけた。

途端、室内が真っ暗になった。

えっ。

窓の外で吹き荒れる嵐の音以外、聞こえない。あまりに静かすぎ、部屋の中は電子機器のランプひとつ灯っていない。

一瞬、ブレーカーが落ちたのかと思った。だけど廊下を通して見える窓の外にさっきまで灯っていた街灯の灯りがないことに気づき、違うとわかった。

停電だ。

調理室に窓はない。手探りで、入り口付近の足元に備え付けてある非常用の懐中電灯を手に取った。


「ごめん、莉々ちゃん、ごはん、もうちょっと後でいい?」

「えーっ、いいけど」

「ごめんね、一緒に来てくれる?」


停電時のマニュアルに従い、すべての部屋のコンセントからプラグを抜く必要がある。彼女をひとりにするわけにいかないので、手を引いて真っ暗な各部屋を回った。

最初はぴんと来ていなかった様子の莉々ちゃんが、次第に非常事態なのを感じ始めたようで、挙動が落ち着かなくなってくる。

CDプレイヤーも止まってしまった。がらんとした園内は、吹きすさぶ風雨の音で満たされており、時折ガラスが割れるんじゃないかと思うほどの衝撃音が走る。

私はぎゅっと莉々ちゃんの手を握った。


「この部屋で最後だから。終わったらごはん食べよう。あんまりあったかくないんだけど、許してね」

「ママは?」

「今、頑張って莉々ちゃんを迎えに来る途中だよ」

「こんなお天気なのに? ママ、けがしない?」
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