クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
08. ぬくもりの後で

額に張り付く髪を掻き上げる彼を見て、「律己くんのパパだ」と莉々ちゃんが朗らかな声をあげた。彼がそれに、にこりと微笑み返してから私を見る。


「ふたりだけですか?」

「あっ、はい…」

「迎えは?」

「あの、県外まで出てしまっているそうで、戻ってくる方法がないみたいで、たぶんですけど、今夜は絶望的かと…」


莉々ちゃんのほうを気にしつつ、そっと伝える。

有馬さんはうなずき、「俺、ここにいますよ」と言った。


「えっ」

「先生ひとりじゃ、ゆっくり仮眠もできないでしょう。このマンションは停電すると水道も止まるし、不便が多いです。朝までいるのなら、人手があったほうがいい」


彼の懐中電灯が、さっと園内の様子を探った。


「備蓄はさすがにありますよね? なにかいるものがあれば、持ってきますけど。携帯のモバイルバッテリーとか」

「あっ…ぜひ」


言われて、携帯の充電が心もとなかったのを思い出した。

それをきっかけに、硬直していた頭が少しずつ働き出してきた。水も食料もある。そうだ、停電開始した時刻を書き留めておかなくちゃ。

エアコンも止まってしまったため、次第に蒸してくる室内に、有馬さんがTシャツの襟元をぱたぱたさせる。


「暑いですね、ここ。電池式の卓上扇風機があるんで持ってきます」

「ありがとうございます、有馬さん、心強いです」

「いや、まあ、ご近所みたいなものなんで。あとは…」


言いながら、足元の莉々ちゃんに目を留めた。


「律己かな?」

「律己くん、来るの?」


ぱっと彼女の顔が明るくなる。

おや、と大人ふたりは顔を見合わせ、笑った。
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