クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「じゃあ、律己を連れてすぐ戻ってきます」

「あの、エレベーター、動いてないですよね、階段でいらしたんですか…?」


ドアに手をかけた有馬さんが、振り返って気恥ずかしそうにうなずく。


「まあ」


14階から、階段で降りてきてくれたんですか。

もう一度往復することも厭わず、また嵐の中に出ていってくれるんですか。

私たちのために。


「じゃあ」

「有馬さん、お気をつけて」


再び彼は外に走り出ていった。

滝のように雨水が流れ落ちる窓の外を、彼の持った懐中電灯の光が移動していくのが見えた。




「ここ、水道まだ生きてますね」


律己くんをトイレに連れて行った有馬さんが、そう言いながら戻ってきた。手を引かれてきた律己くんは、すぐに莉々ちゃんと遊び出す。

非常用の小さなライトが事務室の四隅を照らしている。私はペットボトルの麦茶をコップに注いで、有馬さんの前に置いた。


「俺の家はもうダメでした。今のうちに汲み置きしておいたほうがいいかも」

「そもそも、停電って水道にも影響が出るものでしたか?」

「こういうマンションは、一度屋上のタンクに水道水を汲み上げて、そこから各部屋に供給するんですよ。停電すると汲み上げるためのモーターが動かなくなるんで、タンクが空になれば」

「水が出なくなる」

「そう。おそらくタンクはいくつかあって、階層ごとに分かれてるんじゃないかな。この低層階は、ほら、ほかのテナントがもう閉まってるから、今ちょうど、誰も水を使ってないんですよ」


なるほど!
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