クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
有馬さんがぽかんとしている。

それを見て、くすっと笑ってしまった。


「…ていう感じの身の上話、してもいいですか?」

「エリカ先生の話ですか?」

「はい」


反応に困っているような様子だった有馬さんが、ちょっと首をかしげて、それから小さく何度かうなずく。


「聞きたいです」


その微笑みに背中を押され、「と言っても、そんなたいした話じゃないんですけどね」と私は続けた。


「私の母はキャリアウーマンで、家事育児より仕事を取った人でした。私はもちろん保育園通いでしたし、小学校に上がってからも、家族で食卓を囲んだ記憶がありません」


すやすやと眠る律己くんと莉々ちゃんを見つめながら、抱えたひざに顎を乗せる。


「母は子供の目にもわかるくらい、仕事をしていない女性を軽んじていて、私の友達の親とも交流しませんでした。私が友達の家に遊びに行くのにもいい顔をしませんでした。相手の家に借りを作るようで嫌だったんだと思います」


どんなに反抗的な子供も、親が心底鬱陶しそうな顔で自分を見るのはつらいものだ。私はすぐに、隠れて友達と遊ぶのもやめて、おとなしく家にいるほうを選ぶようになった。


「どうしてだろう、とずっと思っていました。家計的な話だけをするなら、母は働く必要はなかったはずです。働くのは自由です。でも、それなら子供を作らなければよかったんです」


どうしてだろう。

どうして私のお母さんは、ほかのお母さんとちょっと違うんだろう。

どこが違うんだろう。

子供に無関心というのも違う。行事には参加してくれていたし、お弁当が必要なときは彩豊かでデザートまでついて、周りの子に羨ましがられるようなものを作ってくれた。

いい成績を取れば喜んでくれたし、教師に対しても節度ある態度を取っていた。

だけどなにか違う。
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