クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
子供心にぽっと生じ、拭い去れないまま大きくなった違和感は、やがて思春期を迎えた頃に、なんとなく理解できるようになった。

この人は、自分にしか興味がないんだ。

自身の創作物である"娘"の完成度の高さを確かめるのは好きで、他人に向けて "できた母親"を演出できるチャンスも大好きで。

私のことが大切なのは事実。私が必要なのも事実。だっていなかったら、自分の功績を確認できなくなってしまうから。

そのことに気づいたときから、私は勉強するのをやめた。


「成績が下がると、母は心外そうな顔をするようになりました。『あなたはもっとできる子のはずよ』と」


だけどそれは私への信頼ではなく、『なぜなら私の子なんだから』という意味であると、その頃の私はもう気がついていた。


「つまらない反抗から自分の未来を狭めるのも嫌だったので、またすぐに勉強するようになったんですけどね。勉強自体は嫌いじゃなかったので」

「エリカ先生っぽいです」

「打算的でしょう?」


自嘲してみせると、有馬さんが首を振る。


「そうは思わないです。素直で…冷静なんだけど、正直、っていうか」

「え?」


うまい表現を探しているみたいに、彼が口元に手をやってうーんと唸る。やがて諦めたらしく、「そんな感じです」とまとめてしまったので、私は笑った。


「どんな感じですか」

「お父さんはどんな方だったんです?」

「父はあの時代としては、ごく普通の父親だったと思います。平日は仕事、休日は半分家族サービス、半分趣味、といったような」


だけど母のように、自分しか見えていない人ではなかった。仕事優先ではあったけれど、私の成長は私のために喜んでくれていた。幼心にもそれはわかった。


「大学を出て、外資の化粧品メーカーに入りました。忙しくてシビアでしたが楽しくて、けど一年たった頃、母が言ったんです。『そろそろ結婚ね。外資は産休ちゃんと取れるの?』と」
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