阿倍黎次は目立たない。(12/10更新)
放送局のカフェテリアに腰を下ろし、改めて話すこととなった。

「それで、今回の件で金野と戦うわけだけど……歌澄、何かアテはあるの?」
「うん。この前出た『ホワイテスト』の台本、まだ持ってる?」
「あれを参考にするの? まぁ金野は社長だから、企業モノは使えるかもしれないけど……阿倍くんも台本いる?」
「あっ、じゃあお願いします」
「了解。コピーしてくるね」

琵琶さんは席を立ち、どこかへ歩いていった。

「……日野」
「どうしたの?」
「琵琶さんっていくつだ?」
「28だけど……いきなり何?」
「いや、年の差があるはずなのに、タメ語なんだなって」

日野が少しはにかんだ。

「琵琶さんは……美子お姉ちゃんはね、昔家が近所だったの。小さい頃に色々遊んでもらって、本物のお姉ちゃんみたいな感じだった。私が芸能界に入ったくらいで私が引っ越したんだけど、その時からマネージャーになって、何だかんだでずっと一緒にいるの。そんなわけで、タメ語なわけ」
「なるほどな」
「……だから」

日野は目を落とした。

「だから、今回の件で1個仕事がなくなって、困るのは私だけじゃない。美子お姉ちゃんも困る。私がバカなのが悪いのかもしれないけど、それでもこんな風に仕事が消えるのは黙ってられないの」

日野は日野なりに、バカだけどバカなりに頑張っているのかもしれない。俺がバカと言えた身分ではないが。
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