阿倍黎次は目立たない。(12/10更新)
「そう。私の外見のイメージからそういうオファーが来ることも多いんだけど、あくまで見た目だけ。中身は空っぽなの。でも正直な話、世の中見た目みたいなところがあるでしょ? だから私、中身がある人よりいい評価を貰ってるって言うのが申し訳なくて……」

この世界には注目されやすい才能も、されにくい才能もある。才能の合計値は同じでも、注目されやすい才能を持った人間の方がより「才能ある」人物として受け取られる。「才能ある」側の人間として、それは申し訳ない。才能の合計値という考えを基にすると、日野の言葉の意味は概ねこういうことだった。

「なるほどな……まあ、言いたいことは分かった。それで、俺を呼び出したってことは何か重要な相談でもあるんだろ?」
「うん」

日野の艶やかな髪が、風になびく。視線が再び、はっきりと俺の目に注がれた。

「金野くんの言ってた『才能の合計値』。その話を踏まえると、阿倍くんは才能がバランス型。注目されにくいタイプだと思うの。阿倍くん……それは、嫌でしょ?」

先程の絶望感が若干蘇ってきて、吐きそうになった。分かってる。注目なんてされないことも、それを嫌だと思い始めている自分がいることも。神話が消えた、そんな気がした。

「世間での評価を変えることは、多分難しいと思う。でも……この学校での評価くらいなら、変えられると思ってる。それに、この学校にはこれからの時代の各代表となる人物が揃ってる。ここでの評価が覆れば、世間でもいい感じになるんじゃないかなって」

このまま劣等種でいるのは、生きている意味を見い出せなくなる。俺の上位互換が周りに、しかもこんな近くにいると、俺がいなくても何も困らないという状況をまじまじと見つめることになってしまう。それは、俺としてもゴメンだった。
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